「おなかの調子を整えるには、食物繊維をとった方がいい」
そんな話を聞いたことがある人は多いと思います。
食物繊維は、便通や腸内環境に関わる大切な栄養成分です。しかし、過敏性腸症候群(IBS)の人にとっては、食物繊維を増やすことが必ずしも症状の改善につながるとは限りません。
実際、便通を改善しようと野菜や穀物を意識して食べるようにしたら、かえっておなかの張りやガスが気になるようになった、という経験がある人もいるのではないでしょうか。
実は、食物繊維にはいくつかの種類があり、腸の中での働きも異なります。
2009年、オランダの研究チームがIBS患者275人を対象に、2種類の食物繊維を比較する実験を行いました。
そこで明らかになったのは、食物繊維の種類によって、症状の改善に違いが見られるということでした。
今回は、この研究の内容と結果、そして現在の診療ガイドラインでは食物繊維がどのように扱われているのかを紹介します。
この記事では、食物繊維の種類によってIBSの症状への影響がどう違うのか、実際の研究をもとに詳しく解説します。
「まずは結論だけ知りたい!」という方は、目次の 「忙しい人向け!今回の研究をざっくり解説」 から読んでみてくださいね。
食物繊維には「水溶性」と「不溶性」がある
まず、食物繊維の基本的な違いについて説明します。
食物繊維は大きく「水溶性食物繊維」と「不溶性食物繊維」に分けられます。
ただし、実際の働きは水への溶けやすさだけでなく、粘り気や腸内細菌による発酵のされやすさなどによっても異なります。
① 水溶性食物繊維
水に溶けたり、水を取り込んで粘り気のある状態になったりする食物繊維です。
今回の研究で使われた「サイリウム(オオバコの種皮)」も、この仲間に含まれます。
サイリウムには水分を取り込んでゲル状になる性質があり、便の水分量や硬さを調整する働きが期待されています。
腸内で比較的発酵されにくいことも特徴です。
こうした性質から、便秘だけでなく、IBSの全般的な症状に対する効果も研究されてきました。
ただし、すべての水溶性食物繊維がサイリウムと同じように働くわけではありません。なかには腸内で発酵しやすく、ガスの発生につながるものもあります。
② 不溶性食物繊維
水に溶けにくい食物繊維です。
代表的なものに、小麦の外皮部分である「小麦ふすま(ブラン)」があります。
不溶性食物繊維には、便のかさを増やし、排便を促す働きが期待されます。
一方、IBSの人では、こうした繊維を増やすことで腹痛やおなかの張りなどの症状が悪化する場合があります。
もちろん、不溶性食物繊維そのものが悪いわけではありません。
重要なのは、IBSの症状を改善する目的では、食物繊維を一括りにして考えないことです。
なぜ、食物繊維の種類を比較したのか?
食物繊維は以前から、便通を整えるための方法として広く利用されてきました。
IBSの治療でも食物繊維を増やすことが勧められていましたが、研究によって効果にばらつきがありました。
その理由の一つとして考えられていたのが、食物繊維の種類です。
例えば、水分を取り込んでゲル状になるサイリウムと、便のかさを増やす小麦ふすまでは、腸への働き方が異なります。
それなら、IBSの症状に対する効果にも違いがあるのではないでしょうか。
そこでオランダの研究チームは、サイリウムと小麦ふすまを比較し、どちらがIBSの症状改善に役立つのかを調べました。
さらに、食物繊維を積極的に増やさない対照群も設けることで、それぞれの方法の効果を比較できるようにしました。
IBS患者275人が参加した12週間の比較試験
この研究は2009年、医学誌『BMJ』に発表されました。
参加したのは、オランダの一般診療所でIBSと診断された18〜65歳の275人です。
研究では、参加者を無作為に3つのグループへ分け、12週間にわたって指定された食品素材を摂取してもらいました。
| グループ | 人数 | 摂取したもの |
|---|---|---|
| サイリウム群 | 85人 | サイリウム10g/日 |
| 小麦ふすま群 | 97人 | 小麦ふすま10g/日 |
| 対照群 | 93人 | 米粉10g/日 |
対照群の米粉は、比較のために使われたものです。
これは「米粉がIBSに悪い」という意味ではありません。サイリウムや小麦ふすまを摂取した人と比較するための、プラセボ(対照用の素材)として使われました。
研究者は、開始から1か月後、2か月後、3か月後に症状を評価しました。
症状が改善したか、どうやって判断した?
今回の研究で特徴的なのは、参加者自身が感じた症状の軽減を重視したことです。
研究では、腹痛やおなかの不快感が十分に軽くなったかどうかを毎週確認しました。
そして、直近4週間のうち少なくとも2週間で、十分な症状の軽減を感じた人を「改善した人」として集計しました。
つまり、単純に排便回数が増えたかどうかではなく、IBSによる腹痛や不快感がどの程度楽になったのかを調べたのです。
研究結果①:サイリウムは1か月目から改善が見られた
最初の1か月で、次のような結果が報告されました。
| グループ | 症状が十分に軽くなった人 |
|---|---|
| サイリウム群 | 57% |
| 小麦ふすま群 | 40% |
| 対照群(米粉) | 35% |
※各割合は、その時点で評価できた参加者をもとに算出されています。
サイリウム群では57%の人が症状の十分な軽減を報告し、対照群の35%より統計的に有意に高い割合でした。
その差は22ポイントです。
さらに、2か月目の結果でも、サイリウム群は59%、対照群は41%と、サイリウム群で改善した人の割合が高くなっていました。
ただし、3か月目の改善割合では、サイリウム群と対照群の差は統計的に明確ではありませんでした。
一方、IBSの症状の重さを点数化した評価では、3か月後にサイリウム群の点数が平均90点低下し、対照群の49点よりも大きな改善が見られています。
こうした結果から、研究者たちは、サイリウムにはIBSの症状を改善する効果が期待できると結論づけました。
研究結果②:小麦ふすまでは同じような効果が確認されなかった
では、もう一つの食物繊維である小麦ふすまはどうだったのでしょうか。
最初の1か月に症状の十分な軽減を感じた人は40%で、対照群の35%との差は統計的に明確ではありませんでした。
2か月目も、対照群より優れているという確かな結果は得られませんでした。
3か月目には、小麦ふすま群で改善した人の割合が対照群を上回りましたが、途中で研究をやめた人も改善しなかったものとして扱う厳しい分析では、統計的に明確な差とはなりませんでした。
また、この研究では、参加者の途中離脱にも違いがありました。
12週間の試験を最後まで終えた割合は、サイリウム群64%、小麦ふすま群56%、対照群60%でした。
特に小麦ふすま群では、IBSの症状が悪化したことによる早期の離脱が目立ちました。
もちろん、これだけで「小麦ふすまを食べると必ず症状が悪化する」とは言えません。
しかし、少なくとも今回の研究では、小麦ふすまによる明確で安定した改善効果は確認できず、一部の参加者では症状の悪化が問題になっていました。
この研究結果は、今でも参考になるの?
ここまで紹介した研究は2009年のものです。
今から十数年以上前の研究なので、「現在でも通用するの?」と気になるかもしれません。
そこで参考になるのが、その後に公表された診療ガイドラインです。
2021年の英国の診療ガイドライン
英国消化器病学会は、2021年にIBSの診療ガイドラインを公表しました。
その中で、サイリウムのような水溶性食物繊維は、IBSの全般的な症状や腹痛の改善に有効としています。
一方、小麦ふすまのような不溶性食物繊維については、症状を悪化させる可能性があるため、IBSの症状改善を目的とした摂取を避けるよう勧めています。
また、米国消化器病学会の2021年のガイドラインでも、IBSの全般的な症状に対して、水溶性食物繊維の使用が推奨されています。
つまり、2009年の研究は古いものの、その後の複数の研究を踏まえた診療ガイドラインとも、おおむね一致する結果なのです。
ただし、ここで注意したいのは、水溶性食物繊維であれば何でも同じ効果が得られるわけではないことです。
今回の試験で用いられたのはサイリウムであり、その効果をすべての野菜や果物、食物繊維サプリメントに当てはめることはできません。
IBSの人は、食物繊維とどう付き合えばいい?
では、今回の研究を日常生活でどのように活かせばよいのでしょうか。
まず知っておきたいのは、食物繊維は、単純にたくさん摂取すればよいというものではないということです。
IBSの症状には個人差があります。便秘が中心の人もいれば、下痢やガス、おなかの張りに悩む人もいます。
そのため、食物繊維を増やして症状が悪くなった場合には、量だけでなく、どの種類の食物繊維を摂取していたのかを確認することが大切です。
食物繊維は急に大量に増やさない
食物繊維を一度に大量に増やすと、ガスや腹部膨満感などの症状が出ることがあります。
サイリウムも例外ではありません。
英国の診療ガイドラインでは、サイリウムのような水溶性食物繊維について、1日3〜4g程度の少量から始め、徐々に増やす方法が示されています。
ただし、これは医学的な指針の一例であり、すべての人に適した開始量という意味ではありません。
製品によって食物繊維の含有量も異なるため、試してみたい場合は医師や薬剤師、管理栄養士に相談し、水分の摂取方法や製品の使用上の注意も確認してください。
なお、今回の研究で使われた10gという量を、そのまま自分の開始量にすることは避けましょう。
小麦や野菜をすべて避ける必要はない
今回の研究結果は、小麦ふすまを積極的に追加することの有効性に疑問を示したものです。
そのため、「小麦を含む食品はすべて悪い」「不溶性食物繊維を含む野菜は食べない方がいい」という意味ではありません。
実際の食品には複数の栄養成分が含まれており、食べる量や調理方法、個人の体調によっても影響は変わります。
特定の食品を必要以上に避けるのではなく、症状の変化を見ながら、自分に合う食生活を考えることが大切です。
研究の限界も知っておこう
今回の研究には、いくつか注意点があります。
まず、12週間の試験を最後まで完了したのは、275人全員ではありません。
途中で参加をやめた人も一定数いたため、その影響を考慮する必要があります。
また、参加者が感じた症状の軽減を中心に評価していることや、サイリウムと小麦ふすまの性質の違いによって、参加者が摂取しているものを推測できた可能性なども考慮すべき点です。
さらに、この研究は成人を対象としており、子どもや高校生にも同じ結果が当てはまるとは限りません。
IBSのタイプによって、どの程度効果が異なるのかについても、この研究だけで十分に判断できるわけではありません。
まとめ:食物繊維は「量」だけでなく「種類」も大切
今回紹介したオランダの研究では、IBS患者275人を対象に、サイリウム、小麦ふすま、米粉を比較しました。
その結果、サイリウム群では最初の1か月から症状の改善が見られ、対照群よりも改善した人の割合が高くなりました。
一方、小麦ふすまでは同じように安定した改善効果は確認されず、症状の悪化によって研究を途中でやめる人もいました。
その後の診療ガイドラインでも、サイリウムなどの水溶性食物繊維の有用性が支持されています。
今回の研究から学べるのは、IBSでは「食物繊維を増やすこと」だけでなく、「どの種類の食物繊維を選ぶか」が重要だということです。
便通を整えようと頑張って食物繊維を増やしているのに、なかなか症状が良くならない。
そんなときは、量をさらに増やす前に、食物繊維の種類や摂り方を見直すことも、一つの選択肢になるかもしれません。
忙しい人向け!今回の研究をざっくり解説
今回紹介した研究を、簡単にまとめると……
IBSの人は、食物繊維の「量」だけでなく「種類」にも注目した方がよさそう! ということです。
この研究では、IBS患者275人を対象に、次の2種類の食物繊維を比較しました。
- サイリウム(水溶性食物繊維)
- 小麦ふすま(不溶性食物繊維)
その結果、サイリウムを摂取した人では、比較用の米粉を摂取した人よりも、症状が改善した割合が高くなりました。
一方、小麦ふすまでは、同じような明確な改善効果は確認できませんでした。
つまり、食物繊維はただたくさん摂取すればいいというわけではないんですね。
ただし、水溶性・不溶性といっても食物繊維にはさまざまな種類があり、人によっても合う・合わないがあります。
大切なのは、無理に食物繊維を増やさず、種類や量を少しずつ調整しながら、自分に合った摂り方を見つけること。
症状が気になる場合や、食物繊維のサプリメントを使いたい場合は、医師や管理栄養士に相談しながら進めると安心です。
参考文献
- Bijkerk CJ, et al. (2009). Soluble or insoluble fibre in irritable bowel syndrome in primary care? Randomised placebo controlled trial. BMJ.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19713235/ - Vasant DH, et al. (2021). British Society of Gastroenterology guidelines on the management of irritable bowel syndrome. Gut.
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https://doi.org/10.14309/AJG.0000000000001036 - Chey WD, et al. (2022). AGA Clinical Practice Update on the Role of Diet in Irritable Bowel Syndrome: Expert Review. Gastroenterology.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35337654/
※この記事は研究結果に基づいた一般向けの健康情報です。個別の診断や治療を目的としたものではありません。食事療法の変更や食物繊維製品の使用については、必要に応じて医療専門家にご相談ください。


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