過敏性腸症候群(IBS)の症状を改善するために、食事を見直そうと考えたことはありませんか?
IBSでは、食事が腹痛や下痢、おなかの張りなどの症状に関係することがあります。そのため、「何を食べればいいのか」「どんな食品を避ければいいのか」は、多くの当事者にとって気になる問題です。
なかでも、近年よく耳にするのが「低FODMAP食」という食事療法です。
ただ、IBSの食事療法はこれだけではありません。普段の食べ方を見直す方法や、小麦などに含まれるグルテンを避ける方法もあります。
では、食べられるものを厳しく制限するほど、IBSの症状は改善しやすくなるのでしょうか?
2022年、英国の研究チームが、3種類の食事療法を直接比較した研究を発表しました。
この研究の興味深いところは、症状の改善だけでなく、食費や買い物、外食のしやすさについても調べていることです。
今回は、この研究の内容と結果を詳しく紹介します。
IBSの食事療法には、どんな種類がある?
まずは、研究で比較された3つの食事療法について見ていきましょう。
① 一般的な食事指導(TDA)
英国の診療指針などをもとにした、基本的な食生活を見直す方法です。
例えば、次のような取り組みが含まれます。
- 食事の時間をなるべく規則正しくする
- 一度に食べすぎたり、極端に食事量を減らしたりしない
- 水分を適切に補給する
- アルコールやカフェイン、炭酸飲料を控えめにする
- 脂っこい料理や刺激の強い料理を見直す
- 食物繊維の種類や量を調整する
これらは研究で用いられた食事指導の主な考え方であり、すべての人が同じ食品を避けるという意味ではありません。
普段の食生活を確認し、症状と関係しそうな習慣を調整していく方法です。
② 低FODMAP食(LFD)
FODMAPとは、小腸で吸収されにくく、腸内で発酵しやすい糖質の総称です。
こうした糖質を摂取すると、腸内の水分量やガスの発生に影響し、IBSの人では腹痛やおなかの張り、便通の変化につながる場合があります。
FODMAPを多く含む食品には、例えば次のようなものがあります。
- 小麦を使った一部の食品
- 玉ねぎ、にんにく
- 牛乳など、乳糖を含む食品
- りんごなど、一部の果物
- 特定の糖アルコールを使用した食品
ただし、同じ食品でも食べる量によってFODMAPの摂取量は変わります。
低FODMAP食では、こうした糖質を含む食品を一時的に減らし、症状の変化を確認します。
その後、食品を少しずつ戻しながら、自分に合う食事内容を探していくのが基本です。
低FODMAP食は、対象となる食品を一生避け続ける食事法ではありません。
③ グルテン除去食(GFD)
グルテンは、小麦や大麦、ライ麦などに含まれるたんぱく質です。
グルテン除去食では、こうした穀物に由来するグルテンを避けます。
ただし、IBSでは少し複雑な問題があります。
小麦にはグルテンだけでなく、FODMAPの一種である「フルクタン」も含まれているからです。
そのため、小麦を避けて症状が改善したとしても、グルテンを減らしたことが理由なのか、フルクタンなど別の成分を減らしたことが理由なのか、簡単には判断できません。
つまり、小麦を食べると調子が悪いことと、グルテンそのものが原因であることは別の話なのです。
研究者たちは、何を調べようとしたのか?
ここまで紹介した3つの方法は、いずれもIBSの食事療法として研究されてきました。
しかし、以前から課題になっていたのが、それぞれの方法を公平に比較した研究が十分ではないことです。
例えば、低FODMAP食で症状が改善したという研究があっても、それだけでは一般的な食事指導より優れているとは言えません。
また、食事療法は症状への効果だけで評価できるものではありません。
特定の食品を避ける方法では、買い物で商品の原材料を確認する必要があったり、外食で食べられるメニューが限られたりすることがあります。
そこで英国の研究チームは、次の2つを中心に調べました。
① 3種類の食事療法で、IBSの症状の改善に違いがあるのか?
② 食事療法によって、費用や日常生活での続けやすさに違いがあるのか?
単に「どれが効くか」だけでなく、「患者が実際の生活で取り組みやすいか」も比較しようとしたのです。
IBS患者99人が参加した4週間の比較試験
研究が行われたのは英国です。
対象となったのは、18歳以上で、主に以下のタイプのIBSと診断された人たちでした。
- 下痢型(IBS-D):下痢が中心のタイプ
- 混合型(IBS-M):下痢と便秘の両方が見られるタイプ
便秘が中心のIBSの人は、今回の研究の対象ではありません。
研究では114人を募集し、そのうち101人が食事療法を開始。最終的に99人が4週間の試験を完了しました。
参加者は3つのグループに分けられた
参加者は、コンピューターによる無作為な割り当てで、3つのグループに分けられました。
それぞれのグループには33人が残り、最終的な結果が比較されました。
参加者は専門の栄養士から、自分が取り組む食事療法について45〜60分程度の説明を受けました。必要な資料も提供されています。
その後、割り当てられた食事療法を4週間実践しました。
つまり、参加者がインターネットで食事法を調べて自己流で取り組んだ研究ではなく、専門家の指導を受けたうえでの比較だったのです。
症状の改善はどう判断した?
研究では「IBS-SSS」という評価方法を使いました。
これは、腹痛の強さや頻度、おなかの張り、排便への満足度、日常生活への影響などを点数化し、IBSの症状の重さを評価するものです。
点数が高いほど、症状が重いことを示します。
今回の研究では、4週間後にこの点数が開始前より50点以上下がった人を「改善した人」として集計しました。
では、結果はどうなったのでしょうか?
研究結果①:症状が改善した人は42〜58%
4週間後、改善基準を満たした人の割合は以下のとおりでした。
| 食事療法 | 改善した人数 | 改善率 |
|---|---|---|
| 一般的な食事指導 | 14人 / 33人 | 42% |
| 低FODMAP食 | 18人 / 33人 | 55% |
| グルテン除去食 | 19人 / 33人 | 58% |
数字だけを見ると、グルテン除去食の58%が最も高く、次いで低FODMAP食の55%、一般的な食事指導の42%となりました。
「それならグルテン除去食が一番いいのでは?」と思うかもしれません。
しかし、ここで重要なポイントがあります。
今回の研究では、3つの食事療法の改善率に、統計的に明確な差は確認されませんでした。
研究で報告されたp値は0.43です。
これは、観察された差だけをもって「特定の食事法がほかより優れている」と判断するには、十分な証拠が得られなかったことを意味します。
もちろん、3つの方法の効果がまったく同じだと証明されたわけでもありません。
今回の研究から分かるのは、3つのグループそれぞれに症状が改善した人がいた一方で、どの方法が最も効果的かまでは明確にならなかった、ということです。
研究結果②:費用や外食のしやすさには違いがあった
今回の研究で、もう一つ興味深い結果が出ました。
それが、食事療法の続けやすさに関する評価です。
参加者に食費や買い物、外食などについて尋ねたところ、一般的な食事指導を受けたグループでは、ほかの2つのグループよりも次の点が高く評価されました。
- 食費の負担が小さいと感じた
- 買い物にかかる時間が少ないと感じた
- 外食の際にも食事療法を続けやすいと感じた
さらに、低FODMAP食と比べると、一般的な食事指導の方が日常生活に取り入れやすいという評価も得られました。
ここで注意したいのは、これらが参加者の回答に基づく評価だということです。実際の食費が平均で何円安くなったかを示した結果ではありません。
それでも、この違いには意味があります。
どれほど症状への効果が期待できる食事療法であっても、食費が高くなったり、好きな店で食事ができなくなったりすると、続けることが難しくなるかもしれません。
食事療法を選ぶときには、症状への効果だけでなく、生活への負担も考える必要がある。
今回の研究は、そのことを考える材料になる結果を示しています。
では、低FODMAP食には効果がないの?
ここまで読むと、「一般的な食事指導で十分なら、低FODMAP食は必要ないのでは?」と感じる人もいるかもしれません。
しかし、そういう結論ではありません。
今回の研究では、低FODMAP食も55%の人が改善基準を満たしています。
また、2025年には、IBSの食事療法に関する28件のランダム化比較試験、合計2,338人のデータを分析した研究が発表されました。
この分析では、普段の食事を続ける場合と比較して、低FODMAP食によってIBSの全体的な症状が改善しやすくなるという結果が示されています。
特に低FODMAP食は、ほかの多くの食事療法と比べて研究数が多く、症状改善を支持する根拠が蓄積されています。
ただし、「普段の食事を続けた人」と比較するのか、「別の食事指導を受けた人」と比較するのかによって、研究で明らかにできることは変わります。
今回紹介した英国の試験では、3グループすべてが専門家から食事指導を受けています。そのため、何も食事を変えなかった場合と比べて、どれだけ効果があったかを直接示すものではありません。
低FODMAP食には症状改善を支持する研究がある。しかし、すべてのIBS患者が最初から厳しい食事制限をする必要がある、という意味ではないのです。
IBSの食事、実際にはどう考えればいい?
今回の研究結果を、日常生活にどう活かせばよいのでしょうか。
一つの考え方は、まず現在の食事内容や生活習慣を振り返り、必要に応じて医師や管理栄養士に相談することです。
例えば、食事の時間が不規則だったり、特定の飲み物や料理を食べた後に症状が気になったりする場合、その情報は食事療法を考える手がかりになります。
一方、すでに食事を見直していても症状が十分に改善しない人には、低FODMAP食など、より専門的な食事療法が選択肢になることもあります。
ただし、低FODMAP食では、最初に食品を制限するだけで終わらせないことが重要です。
米国消化器病学会(AGA)の専門家レビューでは、次の3段階が示されています。
第1段階:制限期
FODMAPを多く含む食品を一時的に減らし、症状の変化を確認する。制限期は長くても4〜6週間が目安。
第2段階:再導入期
制限していた食品を段階的に戻し、どの種類や量で症状が出るかを確認する。
第3段階:個別調整期
確認した結果をもとに、自分に合った食事内容へ調整する。
このように、低FODMAP食は単に食べられるものを減らす方法ではなく、最終的には必要以上の制限を避け、自分に合う食べ方を見つけることを目指します。
栄養不足のリスクがある人や、すでに食べられる食品が少なくなっている人などは、特に慎重な判断が必要です。
なお、今回の英国研究は18歳以上を対象としています。高校生など未成年の人が、今回の改善率をそのまま自分に当てはめたり、自己判断で厳しい食事制限を始めたりすることは避け、医療者に相談してください。
まとめ:大切なのは「どれだけ制限するか」だけではない
今回紹介した英国の研究では、3種類の食事療法を4週間比較した結果、改善基準を満たした人の割合は42〜58%でした。
しかし、どの方法が最も症状を改善するかについて、統計的に明確な差は確認されませんでした。
一方、一般的な食事指導は、食費や買い物、外食のしやすさといった面で、ほかの方法より高い評価を得ています。
今回の研究から考えたいのは、食事療法の良し悪しは、制限する食品の多さだけで決まるわけではないということです。
IBSは症状にも個人差があります。ある人には役立つ方法が、別の人には合わないこともあります。
「何を避けるか」だけでなく、「症状を少しでも楽にしながら、無理なく食生活を続けられるか」。
そんな視点も大切にしながら、自分に合った食事の方法を考えていきたいですね。
参考文献
- Rej A, et al. (2022). Efficacy and Acceptability of Dietary Therapies in Non-Constipated Irritable Bowel Syndrome: A Randomized Trial of Traditional Dietary Advice, the Low FODMAP Diet, and the Gluten-Free Diet. Clinical Gastroenterology and Hepatology.
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https://doi.org/10.1186/s12916-022-02496-w - Cuffe MS, et al. (2025). Efficacy of dietary interventions in irritable bowel syndrome: a systematic review and network meta-analysis. The Lancet Gastroenterology & Hepatology.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40258374/ - Chey WD, et al. (2022). AGA Clinical Practice Update on the Role of Diet in Irritable Bowel Syndrome: Expert Review. Gastroenterology.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35337654/
※この記事は研究結果に基づく一般向けの健康情報です。個別の診断や治療を目的とするものではありません。食事制限を始める場合は、医師や管理栄養士に相談してください。


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